追憶 ―混血の伝道師―


樹海に入ってしばらく歩き、
緑は濃くなった。

青い虫たちも、
ちらほらと飛び出し、

……もうすぐだ。


「あんまり驚かしちゃいけないかな。予告しとこうか…。」

「……?」

僕は自分の持っていた赤色のランプの火を消した。

深い木々の緑色が、
うっすらと光を帯びていた。


「この樹海の中にはガス灯は無い。でも全く光が無い訳じゃない。ほら…」

「…樹の葉が、光ってる…?」

まだ森の入り口。
うっすらと、
細々とぼんやりと気付く程度。


「…もうすぐ、風が吹く。1つの風が始まり。沢山の風に知らせて、そこから森の木々が大合唱を始めるよ?」

「…大合唱?」

「うん、恐がらないでね?」

僕は立ち止まって空を仰ぐ。
彼女はやはり不安に思ったのか、僕に寄り添うと服の裾をギュッと掴んでいた。


――サァ…

そう湿った風が、
僕たちの横を通り過ぎ、
僕は心地よさを感じて深呼吸した。


「…風が、僕たちに気付いた」

――サァァ…
――ザァァ…ッ!!

それは僕の予告通り、
風たちが森の中を駆け巡り、
木々を揺らす葉のざわめき。

これまでの静けさが嘘の様な、
森の大きな大合唱に、
彼女は驚いて固まっていた。

< 41 / 57 >

この作品をシェア

pagetop