追憶 ―混血の伝道師―
樹海に入ってしばらく歩き、
緑は濃くなった。
青い虫たちも、
ちらほらと飛び出し、
……もうすぐだ。
「あんまり驚かしちゃいけないかな。予告しとこうか…。」
「……?」
僕は自分の持っていた赤色のランプの火を消した。
深い木々の緑色が、
うっすらと光を帯びていた。
「この樹海の中にはガス灯は無い。でも全く光が無い訳じゃない。ほら…」
「…樹の葉が、光ってる…?」
まだ森の入り口。
うっすらと、
細々とぼんやりと気付く程度。
「…もうすぐ、風が吹く。1つの風が始まり。沢山の風に知らせて、そこから森の木々が大合唱を始めるよ?」
「…大合唱?」
「うん、恐がらないでね?」
僕は立ち止まって空を仰ぐ。
彼女はやはり不安に思ったのか、僕に寄り添うと服の裾をギュッと掴んでいた。
――サァ…
そう湿った風が、
僕たちの横を通り過ぎ、
僕は心地よさを感じて深呼吸した。
「…風が、僕たちに気付いた」
――サァァ…
――ザァァ…ッ!!
それは僕の予告通り、
風たちが森の中を駆け巡り、
木々を揺らす葉のざわめき。
これまでの静けさが嘘の様な、
森の大きな大合唱に、
彼女は驚いて固まっていた。