すべて奪って、感じさせて
 ミスのことが頭から離れず、退勤した私はぼーっとしながら歩いていた。

 ふと目を上げると、見覚えのある車が視界に入ってきた。

「乗れよ。送っていく」

 彼が車の窓を開けて私に呼びかける。

 今にも泣きそうな気持ちだったけど、彼の車の助手席に滑り込んだ。



 到着したのは、なぜか彼のマンション。ここに来るのは今日で2回目だった。

 背後でドアの閉まる音がした。

 途端に抱きしめられて唇がふさがれる。私の背中と頭はドアにぶつかり、逃げ場がない。

「何を考えている?」

 唇が離れた瞬間、感情のない声が聞こえてくる。

「今日のミスのことが気になって……」

「嘘だ。……前の男のことだろ?」

 彼は私の左手をつかんで目の前に引き上げた。その手で器用に私の指からリングを外す。

「いつまでこんなものをつけているつもりだ?」

「これは、なんとなく……他に指輪、持ってないから」

「そんな言い訳で、俺をだませるとでも?」

「だって……」

 その続きは乱暴に唇を奪われて宙に消えた。



 だって、まだ信じられないから。

 私があなたに愛されるなんて――。

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