クランベールに行ってきます


 俯いて、ふとベストのボタンが二つはずれている事に気がついた。結衣は目を細くすると、探るようにロイドを見つめる。

「何しようとしてたの?」
「訊くな」
「触ったの?」

 結衣が問い詰めると、ロイドはチラリと結衣を一瞥し、白状した。

「……肋の数を数えているような錯覚に陥った。かなり手強いな。たとえ、ひと月で三倍になったとしても、成果が目に見えないかもしれない。せめて、さらに倍くらいにはならないと……」
「断りもなく触ったのね?!」

 叫ぶように非難する結衣に、ロイドは驚いて反論する。

「って、気付いてなかったのか? その方が問題だろう。ったく、緊張感のない奴だな」
「もう! 油断も隙もあったもんじゃないんだから、このエロ学者!」

 ブツクサ言いながらベストのボタンを留める結衣に、組んだ足のひざで頬杖をつきながらロイドが言い返す。

「油断も隙もありすぎる奴が何を言う」
「だいたい、王子様が見つかったらって約束でしょ? あなたが自分で言ったんじゃない」
「ちっ! そういえば、そんな事言ったっけな。仕方ない。おあずけにしといてやる」

 結衣がホッとひと息つくと、強引に身体を引き寄せられた。

「そのかわり、毎日思う存分キスしてやるからな」
「思う存分って、どのくらい?」
「オレの気が済むまでだ」
「……え……」

 ようするに時間無制限。想像すると、再び頭がクラクラした。
 ロイドは結衣から手を離すと、背中を軽く叩いた。

「目が覚めたなら、さっさと部屋に戻って寝ろ。でなきゃ、約束無視して真剣に襲うぞ」
「うん。帰る」

 結衣は立ち上がると、まだ少しフラつく頭をコツンと叩いて、テラスへ向かった。ガラス戸を開き、振り返って尋ねる。

「明日、いつ探検に行くの?」
「十四時に同期が来るから、その後だ。勝手にひとりで行くなよ」
「うん。おやすみ」
「おやすみ」

 ロイドの挨拶を聞いて、結衣はガラス戸を閉め、テラスから王子の部屋に向かう。途中立ち止まり俯いた。
 明日は自分の仮説を立証するため、地下の遺跡を探しに行く。
 本当はそんな事を気にかけている場合ではないのに、自分の胸を見つめて思わずため息が漏れた。

「あと、ほんの少しでいいから、胸が大きかったらなぁ……」

 仰臥(ぎょうが)すると、真っ平らになってしまう自分の胸が恨めしかった。

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