クランベールに行ってきます
そこへ浴室の扉が開き、身なりを整えた王子とラクロット氏が姿を現した。ロイドが席を立つのを見て、結衣も席を立つ。
服を着て髪を束ねた王子は、遙かに堂々としている事を除けば、まるで鏡を見ているように自分と瓜二つだ。
「待たせたね。何から話そうか」
ラクロット氏を従えて、リビングに入ってきた王子は、相変わらず軽い調子でロイドに向かい、笑顔を見せた。
その様子に結衣は、とうとう我慢できなくなり、つかつかと歩み寄ると、王子の頬を思い切り叩いた。
「なに笑ってんのよ!」
「ユイ!」
ロイドが慌てて、後ろから結衣を抱きかかえて、後退させた。
王子は頬を押さえ、目を見開いたまま、黙って結衣を見つめている。結衣はロイドの制止も気にせず言葉を続けた。
「みんながどれだけ心配したか、わかってんの? あなたの事、あんなに溺愛している王様を心配させて、少しは反省しなさいよ! この、バカ王子!」
「やめろ、ユイ!」
尚も王子に詰め寄ろうとする結衣を、ロイドは視界を遮るように前に回って押し止めた。そして、顔だけ振り向いて王子に頭を下げる。
「申し訳ありません、殿下。こいつは異世界の人間で、この世界の流儀をわきまえておりません。代わりに私がどのようなお咎めもお受けいたしますので、こいつのご無礼はどうかお許しください」
「何言ってんのよ! どう考えたって、悪いのはこの子じゃない。あなただって……」
「いいから、おまえは黙ってろ!」
怒鳴りながらロイドは、結衣の両肩を掴んで強く揺すった。その迫力に気圧されて、結衣は押し黙る。
少しの間、部屋が静まりかえった。
ロイドは振り返り、改めて王子に頭を下げた。
「本当に申し訳ありません、殿下」
すると王子はロイドを見つめて、クスクス笑い始めた。結衣は黙って王子を睨みつけた。