クランベールに行ってきます
おもしろそうに笑うロイドをチラリと見た後、結衣は半信半疑のまま、言われた事を復唱した。
「父上! ボクにロイドを下さい!」
結衣の言葉を聞いて、王はガクンと首を折って項垂れた。
やっぱりまずかったのではないか?
結衣が不安になっていると、王は突然顔を上げた。
目を閉じ、拳を握りしめ、感無量といった表情で天井を上向いた後、思い切り溜めて言葉を吐き出した。
「っっいいっ! 息子のおねだり!」
「え?」
呆気にとられて結衣は再び固まった。
横でロイドがクスクス笑う。
何の事かわからず困惑してロイドと王を交互に見つめている結衣に、王はため息混じりに愚痴をこぼす。
「レフォールは昔からちっとも私に甘えてくれないのだ。後にも先にも、あの子が私に欲しいとおねだりしたのはロイドだけだ」
「はぁ……」
結衣は訝しげにロイドを見つめた。
この男のどこがそんなに気に入ったのだろう。
王は名案を思い付いたように嬉々として結衣に提案した。
「どうだ、ユイ。私の養子にならぬか?」
あまりにも唐突な申し出に、結衣は苦笑を湛えてやんわりと拒否する。
「それはちょっと……。私にも両親がおりますので」
王は腕を組んで考え込んだ。
「それはそうだな。レフォールにはすでに婚約者が決まっているから、あの子の妃というわけにもいくまいし」
たとえ婚約者がいなくても、自分と同じ顔の夫など御免被りたい。
すると王はまた何か閃いたらしく、ポンと手を打った。
「そうだ。ロイドと結婚してはどうだ? そうすれば王宮内に住む事になるし、時々レフォールの代わりに私に甘えてくれればよい」
思わずロイドの方を向くと、彼もこちらに視線を向けていた。
偶然顔を見合わせる事になってしまったが、すぐにロイドは関心がなさそうに視線を外した。