クランベールに行ってきます
「学者のくせに無駄にいい身体をしていると、よく言われる」
しれっとして言い放つロイドに、結衣はうんざりしたようにため息をついた。
誰がそんな事を言っているのか、あえて追及したくもない。
「なんなら脱いで見せようか? 向こうのベッドルームで」
首を傾げて、羽織った白衣を広げてみせるロイドに、結衣は目を細くして追い払うように手を振った。
「抱き心地の悪い女にそんなサービスいらないわよ。ひとりでベッドルームに行って」
「おまえ、根に持つ奴だな」
ロイドは拒否された事など気にも留めず、おもしろそうにクスクス笑う。
「じゃあ、根に持たれたら困るし、忘れる前に帳消しにしとくか」
そうつぶやきながらロイドは、メガネを外すと胸ポケットに収めた。
メガネを外したロイドは学者っぽい冷たさが消えて、随分と甘い風貌になる。
蜂蜜色の髪と濃い緑の瞳。ヨーロッパ人のような容姿が、見慣れない結衣には会社の男たちと比べてかなり男前に見えていた。ただし、黙っていればの話だが。
ロイドは結衣の真正面に立つと、淡く微笑んで見下ろした。
思わず見とれてしまう甘い笑顔に、ほんの少し呆然として見上げた後、結衣はハッとして問いかけた。
「メガネなくて見えるの?」
「近付けば問題ない」
言ったと同時にロイドは、結衣の腰に左腕を回し、強引に引き寄せた。
突然の事によろけて、結衣はロイドの胸に両手をついた。
服越しに伝わる硬い筋肉の感触に、いい身体をしているって本当なのかも、とちょっと思った。
しかし、どうしてこんな体勢になっているのかはわからない。
結衣は逃れようと両手を突っ張りながらロイドを睨み上げた。
「ちょっと! 何?」
抵抗する結衣をロイドはさらにきつく抱き寄せ、意味不明な事を言う。
「やはり、ちょうどいいな」
密着した身体から伝わるぬくもりと、目の前に迫った甘い笑顔に鼓動が高鳴り、顔が熱くなってきた。
自分がドキドキしている事は、きっとロイドに伝わっている。
「……やっ……!」
恥ずかしくて顔を背けようとした結衣の後頭部に、ロイドの右手が添えられ頭を動かせなくなった。