クランベールに行ってきます
ムッとして、額を押さえたまま、先ほどテラスから見た空飛ぶ乗り物について訊いてみた。
「あぁ、飛空艇か。ニッポンにはないのか?」
「飛行機ならあるけど……」
結衣はロイドから紙とペンを借りて、飛行機の絵を描いた。
ロイドはそれを少し眺めて、
「この羽は動くのか?」
と問いかけた。
「動かない」
「じゃあ、垂直には飛べないな」
「うん。滑走路を走って、助走を付けてから飛ぶの」
「クランベールには普及しない乗り物だな」
「どうして?」
「さっき話した遺跡のせいだ」
クランベール大陸の各地には謎の古代遺跡が点在している。そして、その遺跡の中には何だかわからない機械装置がある。しかも、この機械装置は時々光を発したりして、どうやら機能を停止していない事が知られている。
何だかわからないので停止させる事もできず、何だかわからないのでうかつに壊す事もできない。
そのため遺跡を避けるように街が造られ、遺跡保護のため、新たな道路を造る事はできない。街道は古代に造られた石畳の道を補修して利用し、街と街の移動には垂直離着陸可能な飛空挺が主な交通手段として発達した。
「なんか、その遺跡見てみたいな」
「街の外にしかない。諦めろ」
王宮内では自由にしていいと言われたが、王子が勝手に街の外どころか、王宮の外に出る事さえ許されるわけがない。仕方なく結衣は諦めた。
気を取り直して、本来の目的をロイドに尋ねた。
「私に渡したいものって何?」
ロイドはポケットを探るとタバコの箱くらいの大きさの黒い板を結衣に差し出した。
「持ってろ」
結衣は受け取った黒い板を裏返したりして珍しそうに眺めた。厚みは一センチくらいで、真ん中にボタンがひとつあるだけだ。
「何? これ」
ロイドはポケットから、もうひとつ同じような板を取り出して見せる。
「通信機だ。そのボタンを押せば、オレの持つこいつに通じる。通話も可能だ」
「あぁ、ケータイみたいなものね」
結衣が納得して通信機をポケットにしまうと、ロイドが興味深そうに問いかけた。
「ケータイって何だ?」
「携帯電話。持ち歩ける電話よ。クランベールにはないの?」
「ない。どういう仕組みだ?」
「……え……」