クランベールに行ってきます
「ちょっと苛ついてて、ロイドに八つ当たりしちゃったの」
それを聞いて、途端にローザンの手がピタリと止まった。驚愕の表情で結衣を見つめる。
「ロイドさんに八つ当たり? ユイさんって怖いもの知らずっていうか……強者ですね」
「……え? そう?」
ロイドってそんなに恐れられているんだろうか? 結衣が苦笑すると、ローザンは治療を再開しながら、おもしろそうにクスクス笑った。
「ロイドさんって強引で頑固ですけど、陛下に信頼されてて、仕事もできるし、案外社交的で面倒見もいいから、人望も厚いんですよ。科学技術局の人たちも、局にほとんどいない局長なのに信頼してるんです。その分、副局長は大変そうですけどね」
意外だ。エライ人たち以外にも”いい人”呼ばわりされている。結衣は思わず目を丸くした。
「でも、ちょっと子供っぽいとこがあるんですよね。あれって、たぶん……」
そこまで言うと、ローザンは益々おもしろそうにクスクス笑った。
「何?」
結衣は訳がわからず、身を乗り出して尋ねた。しかし、ローザンは答えず、包帯を巻き終わると話をはぐらかした。
「派手に出血してましたが、打撲とすり傷だけですね。歩いてかまいませんよ。夕食後、お部屋にお薬をお持ちします」
ローザンは結衣の疑問に答えるつもりはないらしい。柔和な笑顔に強固な意思を感じられる。結衣は追及するのを止める事にした。
結衣は診察台から降りて靴を履くと、その場で二、三回足踏みをしてみる。ほんの少し傷が疼くけど、歩くのに支障はなさそうだ。
ローザンに礼を述べると、結衣は医務室を出て、自力で王子の部屋に戻った。