クランベールに行ってきます
自分が何かをした自覚はない。考えられるとしたら、人捜しマシンの誤動作が、遺跡の装置に何らかの影響を及ぼしたという事だろうか。
ロイドはおもむろに隣の席につくと、机の上に置かれたノートパソコンを操作し始めた。どうやら隣のメインコンピュータからデータをコピーしているようだ。
少しして、ロイドはノートパソコンを閉じ、立ち上がった。
「遺跡の事は、あいつに訊いた方が早い。ちょっと家に行ってくる」
ケーブルを引き抜き、パソコンを小脇に抱えると、ロイドは足早に出入口に向かう。途中で不意に振り返り、結衣を指差してローザンに告げた。
「ローザン、そいつが勝手にうろつかないように見張っててくれ。頼んだぞ」
「はい」
ローザンの返事を聞くと、ロイドは忙しそうに研究室を出て行った。
ロイドを見送った後、ローザンは結衣を見上げて微笑んだ。
「とりあえず、ぼくたちはいつも通りにしてましょうか」
「うん」
結衣も笑って頷くと、窓際の席に戻った。先ほど椅子の上に置いた絵本を取ろうと身を屈めた時、廊下から荒々しい足音がバタバタと近付いて来るのが聞こえた。
結衣が振り向いたと同時に研究室の扉が開き、ロイドが駆け込んで来た。
「忘れるところだった。ユイ、これを持ってろ」
駆け寄ってきたロイドが結衣に差し出したのは、以前もらった通信機の色違いバージョンだった。今度のは、暗い赤だ。
「通信機?」
結衣が受け取り尋ねると、ロイドは簡単に説明した。
「バージョンアップした。通信エリアを少し拡大して、発信器機能も付けた。おまえの居場所がすぐわかるようにな。前のはローザンに渡しとけ」
それだけ言うと、ロイドは再びバタバタと研究室を駆け出して行った。
結衣は以前もらった黒い通信機をローザンに渡し、元の席に戻ると絵本を広げた。
しばらくの間、ローザンと結衣はいつも通りの日常を過ごしていた。ローザンはデータ解析を行い、結衣は絵本を見たり小鳥を撫でたりしている。
お茶でも淹れようと、結衣が席を立った時、研究室の扉がノックされた。
結衣とローザンは同時に出入口に注目する。扉が開かれ、訪問者が姿を見せた。
「失礼します。こちらにレフォール殿下はいらっしゃいますか?」
訪問者は軽く頭を下げると、正面に立っている結衣に目を留めた。
本日三人目の来客は、結衣の見知らぬ若い男だった。