光の旅人

歌が始まった。


ジャン クロード孤児院では、夕食の後に、皆の好きな歌を歌う。さすが音楽の街だ。こんな施設にも一応楽器が揃ってる。もうぼろぼろでろくな音が出ないんだけど、それでもみんなで修理して何とか使ってた。みんなそれぞれお気に入りの楽器を持ち寄り、弾いたり吹いたり唄ったり、とにかく遊びまくる。みんなで一緒に音を出すのは、とても気持ち良かった。


「クルド!歌ってよ!」「そうだ!歌え歌え!」「おい!クルドが歌うってよ!」

どこからともなく、そんな声が聞こえる。照れながらも、悪くない気分でリクエストに応じる。


「そうだな…じゃ今日は『Moon River』でどうだい?みんな知ってるだろ?キーは…そうだな…E♭がいいかな。」



SONORのドラムセットと、Count Basie(カウント ベイシー)のレコードたちは、この孤児院の宝だ。「Moon River」は、13歳の時にたまたま手に取ったアルバムに入っていて(アルバムのタイトルは忘れた)、そこから夢中になってその曲ばかり聴いていた。どこか切ないメロディーと、美しすぎるハーモニーに心を奪われた。年を重ねて、他の曲も好きになっていったが、不思議とこの曲は今でも僕の一番のお気に入りの曲だ。



ドラムのカウントが始まり、イントロが流れる。うん、このキーで大丈夫だ。きっと素敵に歌える…


今日のソロは誰だ…あぁ、バッチェスとカリムか、バッチェスの奴、うまくなってやがる…


いいピアノだな…やっぱりコルトか…おっと、ベースのピッチがずれたな…



アウトロだ…もう終わりか…何だよ、もっと唄いたいのにな


曲が終わると、拍手が起きた。僕は立ち上がって、仰々しくお辞儀をする。

毎回この宴は、僕の歌で終わる。宴が終わると、みなそれぞれの部屋に帰り、静かに眠る。先ほどの夢の時間を噛み締めながら。
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