光の旅人
旅立ち
その日は、朝からずっと目がチカチカして、なんだか落ち着かない気分でした。このふわふわしたような、地面が少し遠くなるような感覚にはもう慣れっこですが、目のチカチカだけは、どうも気が滅入るのです。


「あぁ…もうすぐか」


この日は、私たち一族みんなそうです。目のチカチカを気にするのは私だけかもしれませんが、他の、例えば少しそわそわしたりだとか、じっとしてられなくなったりだとか、つい遠くの景色をずっと眺めてしまうとか、そういう心持ちは、私も私のお父さんも、他の家族の方々も、みんなそうなのです。


「明日の晩か…もしかしたら今日かもしれないな。」

散弾銃と、何か大きな鳥を担いでテントに入ってきたお父さんが呟きました。


「いつも急だよね。私まだ準備してないわ。こっちの身にもなってほしい。」

私はつい愚痴を言います。


「オーロラを悪く言ってはいけないよ。オーロラは常に護って下さっているのだからね。さぁ、この獲物を捌く準備をしておくれ。こいつを食ったら旅立ちの準備だ。」


そう、今日は、旅立ちの日です。

たぶん、私は14回目。お父さんは、何回目でしょう。

今私たちがいる場所は、ごつごつした岩の大陸です。13ヶ月旅をして、ここへやってきました。私たち以外に、人の気配はしません。
苦労して立てたテントですが、もう仕舞わないといけないみたいです。

目のチカチカはちょっと嫌だけど、旅立ち前の慌ただしさは、少し好きです。



私は急いでこの大きな鳥を捌く道具を用意しました。私たち一族は、ずっとこうやって生きてきました。男の人が狩りをして、女の人がそれを捌いて料理をします。だから男の人は、自分のテントに帰ってきたら、奥さんにその後すべてを任せて、ゆっくりと休むことができるのです。

だけど、私たちは少しだけ違います。


私のお母さんは、私を生んだ後、間もなく亡くなりました。もともと体が弱く、周りからも、子供を産むことを反対されていました。


でも、お母さんは私を産んでくれました。私を産み落とした直後に、静かに笑って逝ってしまったのだそうです。

お母さんのことは、全然覚えてないけれど、お母さんの話を聞いたり、思い出したりすると、心にぽっと暖かいものが灯ります。顔も声も知らないけれど、私はお母さんのことが好きです。


お父さんは、ずっと男手一つで、私を育ててくれました。狩りに行っている間は、別の人のところ
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