雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜
 そしてそれが、彼が間違いなくイシャナであるという証なのだ。

「ホンマ? 嫌いやないなら、じゃあ……傍におってもええ? ガルナにいる間だけでも、一緒におりたい……そしたら俺、ナーガに帰っても、独りになっても頑張るし」

「イシャナ。お前は独りじゃない……ナーガには、お前を待ってる人たちがいる。私も……お前を信じている。だから、そんなことはもう云うな」

 魂に刻まれた記憶は、生まれ変わった今も、その傷を残している。
 月夜にはそれが、そこはかとなく愛しかった。
 同じ孤独を抱いた同志は、どちらもすでに孤独ではなくなったのだ。
 そっと抱き締めた彼の額に、新たな刻印を刻む。
 きっと幸せになれる約束のしるし。
 そして魂を分け与えた、心通わす同志のしるし。

「月夜……様」

 惚けた顔で見上げるイシャナに、月夜は笑みを浮かべてみせた。

「わかったなら、もう休め……童子は寝る刻だ」

 背中を押して部屋へと促す。
 おとなしく数歩ほど前に進んで、イシャナは脚を止めた。

「……月夜様」

 月夜を振り返り、はにかんだイシャナに首をかしげる。

「俺……」

 そのまま口ごもり、言葉がみつからないのか頭を振ると、何でもないと呟いた。
 走っていく後ろ姿に、ふと、以前感じた恐れの杞憂さを思う。
 いくら只人の王とて、イシャナは特別な人間だ。
 月夜のためだけに、世界を滅ぼそうなどという愚かなおこないをするようなことはないだろう。

――そんなことをすれば、己を不幸にするのは誰の目にも明らかだ。

 月夜の存在がある限り、それが叶えられることは絶対にない。

「ボクが望むことなら……か」

 思わず反芻した言葉に、自然と頬がゆるんだ。


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