雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜
「な、なんでも…」

 月夜は冷静をよそおい、椅子を起こした。
 ひたすらイシャナから目を逸らしながら、自分が想像したものに恐怖する。

――まさか、まさかそのような。

 想像は想像を越えて、現実に触手を伸ばそうとする。
 月夜の中で、彼がそうだと云う疑いが濃くなっていく。
 それは同時に殺意めいた感情も呼び起こさせる。

「……イシャナ」

 月夜は意識して声を抑えた。
 ともすれば取り乱して叫んでしまいそうだった。

「なんです?」

 なんの疑いもなく、彼は笑みを浮かべる。
 わずかに、チクリと罪悪に見舞われた。

――本当に、イシャナがそうなのか? それとも考え過ぎだろうか?

「……お前、帝が襲われたことを知っているな」

「あぁ、えろう騒ぎになってましたからな。宮の中でなんて、ビックリしましたわ」

「そのとき…どこで何をしていた?」

「え……部屋で寝とりましたけど……なんや、取り調べのようですな? 俺がなんかした思てます?」

「だったら翌日の夜は? 宮から出なかったか。お前は――」

 月夜はハッとして口を押さえた。
 つい余計なことまで訊いてしまったようだ。
 見るとイシャナの顔から一切の表情が失われていた。

「……なんや知りまへんけど、俺は完全に疑われてるゆうわけですな。月夜様…」

 カタリと音をたて、イシャナが椅子から立ち上がった。
 しまったと思ったが、今さら云ってしまったものは取り消せない。

「と、当然だ。お前はガルナの人間ではないのだ。本来なら何より疑ってしかるべきだろう?」

 ゆっくりと、二人の距離を縮めてくるイシャナから、月夜はジリジリと後ずさる。


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