雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜
 雪の瞳が妖しげな光を宿していた。

「ば、ばかな……契り? それはどういう意味だ!」

 手脚をバタつかせるが、阿修羅はひどく重くびくともしない。
 雪はゆっくりと白い肌に鼻を近づけた。

「や……やめ……っ」

 ツ、と胸を滑る濡れた感触は、冷たくてくすぐったい。
 手脚以外どうにも動かせず、腹が大きく上下した。

「…人間は男と女という種がひとつになり、新しい種を生み出すのだったな」

 柔らかい内臓がつまった部分を、生暖かく厚い舌が舐めあげる。
 月夜は、未知で奇妙な感覚と込み上げる恐怖に身体を戦慄かせた。

「だが”俺たち”の種は、人間の云う闇と光……神と魔。これらは表と裏、表裏一体の存在。片方だけでは生まれ得ない……ゆえに、互いの魂は強く惹き付けられる。俺と…お前のように」

 雪の言葉は、月夜を混乱させるだけだった。
 弱々しく首を横にしながら、ただその意味を理解できない苦しさに抗う。

「抵抗するな……これが欲しいなら、すべてを俺に委ねろ」

「ひ……ぁ…っ」

 浮遊感に包まれる肉体から、魂が掴みとられる。
 しかし月夜はそれ以上を望まなかった。

――たとえそれで阿修羅を自分の式に出来るのだとしても…。

「いや…だっ。お前と……魔物なんかと……交わるなど……絶対!」

 意地でも身体を離れまいと、月夜は必死に叫んだ。
 それでなんとかなるとも思えなかったが、他にどうすればいいのかもわからない。
 ほどなくして、頭の上で雪が嘆息した。

「なぜだ? これが欲しかったんだろう」

 荒い息の狭間に、月夜はまなじりをつりあげ雪をねめつけた。

「こ、こんなことをしなくても…絶対にボクが力づくで…手に入れる!」


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