雪月繚乱〜少年博士と醜悪な魔物〜

神の侵攻

「そなた、あのナーガの者を監視しているそうじゃな」

 謹慎を解かれ、帝の執務室に呼ばれた月夜は、苦々しげな表情を十六夜に向けた。

「……申し訳ありません。勝手なマネを」

「いや、責めているのではない。実は余も考えておったのじゃ。前帝の意思とはいえ、いつまでもあの者の処遇を決めずにいるのもどうかと…しかし仮にもナーガの要人、ヘタに余からは手が出せぬでな。有り体に云えば、そなたが先走ってくれて助かった」

「十六夜……」

 十六夜は無邪気に笑い声をたてた。
 それで思い出したが、彼は昔から月夜には都合よくたちまわるところがあった。
 いまならそれが、彼なりの親愛の情であったとわかる。

「十六夜は本当にボクに甘い…」

「なにか云ったか?」

 月夜は静かに首を横にした。

「近々処遇をくだす。この国を出れば、なにを企んだとしてももう手出しはできまい」

「じゃあ、イシャナは…」

 十六夜がうなずいて椅子から立ち上がった。

「疑わしきは罰せず…というところじゃ。そなたが思うところあれば、それまでに解決しておくがよい」

 月夜の肩に軽く触れ、十六夜は顔布の向こうで目を細めた。

――解決、といえば訊きたいことはあるにはある…けど。

 夕刻になり執務室から出た月夜は、月読の部屋に戻り書物の山から、ナーガの寄贈書を持ち出した。
 それには、気になっていた章がある。
 イシャナに訊かなければ、おそらく他のナーガの人間には逢う機会もないだろう。

「あいつに訊かねばならないというのも、癪ではあるがこの際仕方ない」

 夕げのあとに、イシャナのいる迎賓の館へ向かうことにした月夜は、ふと何かの気配に顔をあげた。


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