軋む助手席
静かな車内。


フロントガラスを叩きつける雨音と、遠くの方で雷の唸るような低い音が聞こえていた。


「着いたぞ。ここでいいのか?」


室長は私が住んでいるマンション内の駐車場に車を停めた。


「ありがとうございます。あの……」


私はシートベルトを外して室長を見つめた。


「お礼にうちでお茶でもどうですか」と言いたいのに言葉が出てこない。


「どうした?」


室長は不思議そうに私を見据えた。


こんなチャンス二度とないかもしれないのに。


まだ離れたくないのに。


せっかく二人きりになれたのに。


でも、すぐに男を家に上げる軽い女だと思われたらどうしようと思うと、なかなか言い出せない。
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