記憶のキロク
 もう、本能も理性も関係なかった。

 生きたいという欲望だけが、体を支配した。

 止めを刺しにくる父さんから、包丁を奪い取って逆袈裟切りにした。

 肉を切る柔らかな弾力のある手ごたえと、微かな刃と肉の摩擦、骨に刃が食い込む、ごりっという手ごたえ。

 そんなものを感じながら、意識が奈落に落ちた。
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