記憶のキロク
「参りました」

「お兄ちゃん、負けちゃったんだ。でも、しょうがないよね。しげじい、この病院じゃあ最強だもん」

「なぬ?」

 院内最強だと……どうりで強いわけだ……ってか院内最強ってのも微妙だが……

「重畳。重畳。じゃが、おだてても何も出んぞ?」

「…………」

「ん? 春風ちゃん? どうかしたの?」

 じいさんの言葉が春風ちゃんの右耳から入って左耳から出て行ったような感じがしたが、気のせいだろうか?

「え? あ、ううん何でもないよ。ただ、ぼーとしちゃって」
春風ちゃんは、かわいらしく舌を出して、

 失敗。失敗。と言いつつ軽く頭をかいた。

「なら、いいんだけど」

「そんなに、春風ちゃんのことが心配かな?」

「そりゃあ、当然だろ」

「当然か。なるほどなるほど」

 なんか含みのある言い方をした後、じいさんは豪快に笑った。
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