砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
 真剣に呪文を唱える龍星の横で、雅之は成すすべもなく立ち尽くしていた。

 念のため、太刀に手をかけてはいる。
 が、大抵の場合妖(あやかし)には、このような物理的なものは通用しない。

 むしろ、どうして自分にそのようなものが見えるのか不思議なくらいだ。

 もっとも、その疑問を口にすると
「俺なんかと友達だからだろ。もう近づかなきゃ見えなくなるさ」
 などと、親友である龍星が冷たいことを言い出すので、それに関してはあまり追求しないことにしていた。

 見えるものは見えるし、勝てないものは勝てない。

 歯がゆいが、あるがままを受け入れるほかはない。

 長い、長い、長い。
 永遠とも思われる呪文が途切れた、その一瞬。

「いやぁあっ!!」

 という、悲鳴が空気を切り裂き、灰色だったはずの屋敷全体が、桜色へと姿を変えた。


……桜吹雪か?


 雅之が思わず瞬きをした直後、風景は元の鼠色へと戻っていた。


 先ほどの光景は、幻かとも思われた。

「結界の中へ入る」

 厳しさを湛えた眼差しといつになく重たい口調で、そう、龍星が言わなければ。
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