砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
 龍星が手に持っていた焼いた魚を千切って放り投げると、見事に空中で捕まえて、再び闇の中へとその姿をくらましていった。

「そうだな、陰陽の力とは、例えていうなら、一匹の魚のようなものさ」

「魚?」

「鮪(まぐろ)が大きいからと、小魚が少しその身体をわけてくれというとする」

「それはいくらなんでも無理だろう」

 雅之が突拍子もない話に目を丸くする。
 龍星が紅い唇に弧を描く。

「だろう?
 お前の言っているのはそういうことさ。
 俺は簡単に自分の力を切って出したりは出来ないのだよ」

「しかし」

 と、雅之は納得出来ない様子だ。

「道剣はお前と会った後、別人のようになっていたと聞いたぞ。なんでも相当痛め付けられたようにしか見えなかったとか」

 龍星に遠慮して、雅之は噂の内容を控えめに伝える。
 まさか、地獄から帰ってきたかのような凄まじい怯えようだった、とは言えない。
 
 龍星はつまらなそうにその目を眇る。

「噂だろう?」

「噂でも、さ」

 それは噂でも、何かしらの術(わざ)で黒幕の名を聞き出したのは事実だ。

 いくら空気を刃物のように感じたとはいえ、ここで起きた事程度であの道剣が口を割ったとは思えない。

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