君が見たいから ~ Extra ~

『えええっ? ち、違うわよ。ちょっと、ソンウォンさんってば!』

『……だろうな。わかってるさ』


 わざとらしくため息をついて、少しがっかりしたように手が下がる。

 夫がもう一人か二人、子供を、できれば男の子を欲しがっているのはよくわかっていた。

 さりげなく聞かれるたび、少し申し訳ない気持になるほどだ。


『それじゃ何だい?』

『実は……、この前ね……』


 そのとき、ふいにローテーブルに置かれた彼の携帯が鳴った。

 ちょっと待って、と唯を制し、ソンウォンが番号を確認する。

『社長秘書だな』


 携帯を取り上げた途端、それまで和んでいた彼の表情が、たちまちやり手ビジネスマンの顔に変わる。

 続く長い会話の間、淹れたコーヒーがどんどん冷めていくのを虚しく眺め、唯は次第に物悲しくなっていた。


 ああ、また出張の話ね……。


 社長秘書もまったく気がきかない。どうせ電話するにしても、あと30分、いえ、10分でもいいのに、どうして待ってくれなかったのだろう。

 ソンウォンもソンウォンだ。二週間ぶりの休日くらい、仕事は一切抜きでゆっくりと過ごせないものだろうか。


 ワーカホリックって、こういう人達のことを言うんだわ!


 心の中で、苛立ちが急激に膨らんでくるのを感じた。

 そういう時に限って電話は延々と続き、同じ時間が一層長く感じられる。

 そして自分でも気が付かないうちに、いつしか忍耐の限度に達してしまっていたようだ。

 携帯が切られるのとほとんど同時に、唯は衝動的に立ち上がっていた。

 冷ややかな目で夫を見下ろした彼女の口から、自分でも思いがけない言葉が飛び出してくる。
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