モントリヒト城の吸血鬼①~ヴァンパイアの花嫁~
「ご、ごめんなさいっ!」

あわてて、男の手をつかみ、つい妹にいつもしてやるように
傷口を口に入れかけたが、男は姫乃の顔を押し戻し、
血のこぼれる手を姫乃から遠ざけた。

「あの、ケガ…。」
「死にたいの?」
「え?」
「…僕たちの血を舐めると死ぬよ。」
「…。死んじゃうって…。」
「僕たちの血は人間にとって猛毒なんだよ。
血を与えられた人間は、じきに飢えを凌ぐため
人を襲う化け物になる。」
「…。化け、物…。」
「僕たちはそれを喰血鬼(ブラッド・コープス)と呼んでる。
…キミが喰血鬼になりたいっていう変わった生きものなら、
おもしろいから飲ませてあげるけど。」
「い、いらない!遠慮します!!」

青い顔で必死に否定したら、男は少し笑ったように見えた。

「気にしなくても、すぐに治るよ。」

ケガをさせたことをまだ気にする様子の姫乃に
気付いた男が、そういって手を差し出した。

「…え…!」

姫乃が驚きの声を上げる。

差し出された男の指先はしだいに血が止まり、
まるで時間が巻き戻ったかのように
傷口もふさがっていく。

一分と経たないうちに、男の傷は全くあとを
残すことなく消え去った。
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