モントリヒト城の吸血鬼①~ヴァンパイアの花嫁~
しばらくそうしてから、
凍夜は無言で姫乃を
抱きしめる腕に
力を込めた。

心臓を直接ぎゅっと
抱きしめられたような
感覚が切なくて、
姫乃も凍夜を
抱きしめ返す。

久方ぶりの凍夜の
ぬくもりがうれしくて
目頭が熱くなる。

もしかしたら
ばれているかも
しれないが、
それでもあからさまに
泣いているのを
見られて困らせたり
したくなくて、
姫乃はこっそり
涙をぬぐった。

黙ってぬくもりに
浸っていると、
涙が止まらなく
なりそうだ。



…ふと、凍夜の
母親が死を望み、
彼がそれを
受け入れた理由が
気になった。



姫乃の問いを
凍夜は否定しなかった。




…誰かの、為に。




…誰の、為に…?




ようやくまどろみ
始めた姫乃の脳裏を、
よく見知った姿が
よぎった。
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