光のもとでⅠ
 朝からうるさいほどに蝉が鳴いていた。
 その中を自転車に乗って学校へ向かう。
 歩いたら十分、自転車なら五分弱。そんな差だけど、この時期ばかりは時間短縮を優先させる。
 図書棟に入りエアコンを入れると簾条がやってきた。
「簾条、翠のこと何か訊いてる?」
「何かって言えるほどのものはないわ。ただ、普通じゃない……」
 そう言うと黙り込んでしまう。
「直接会いたくて佐野と一緒に蒼樹さんに連れて行ってもらったの。でも、結局会える状態にはなかったわ」
 それは発作中か何かで……?
「家からピアノの音が聞こえてきた。あの子の以前の演奏を聴いたことがある人間なら、あの演奏が同一人物とは思えないでしょうね。そんな弾き方……。腕を傷めるんじゃないか心配になるような……ひどい演奏だった。私が知ってるのはそのくらい。あとは蒼樹さんも看病に付いている人たちも、そろそろ限界ってことくらい」
 それだけで十分だった。
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