光のもとでⅠ

07 Side Momoka 01話

 翠葉の警護期間とやらは終わったらしい。けれども一番のりでおめでとうを言いたい私は自発的に翠葉より先に登校し、教室で待ちかまえていた。 
 教室のドアを開けた翠葉に、
「ハッピーバースデー、翠葉っ!」
 翠葉は嬉しそうな顔をして、「桃華さん、ありがとう」と口にした。
 翠葉の笑顔には癒される。このふわっとした感じは出そうと思って出せるものではないだろう。だからこそ、クラスメイトがこぞってかまいたがる。否――かまうというよりは、その柔らかな空気に触れたいと思っているだけかもしれない。
 翠葉が席に着くと、
「私、一番のり?」
「残念ながら五番のり」
 まぁ一番から三番は諦めていた。蒼樹さんに栞さんには朝一で会うのだし、秋斗先生が何もアクションを起こさないとは思えなかったから。でも、五番というのはいかがなものか。
「蒼樹さんと栞さん以外に――あ、ご両親?」
 秋斗先生を入れればあとはご両親で数が合う。でも、そうすると私は六番になるはずで――。
「ううん。一番のりは司先輩だった。電話をくれて、カウントダウンしてくれたの。二番目が秋斗さんで三番目が栞さん。四番目は蒼兄」
「ふ~ん……」
 やっと藤宮司が動いたってところかしら。まぁ、先日あれだけ言われたのだから、何もせずにはいられないでしょうね。
 藤宮司は、普段ならあんな派手な姫と王子のお披露目会など承諾しないだろう。ただ、それに翠葉が絡んだから仕方がなく……といったところのはず。
 そうだとは思っていたけれど、やっぱり翠葉のことが好きだったのね。今まで女子という女子を無視ししてきた男がどう出るのか……。これからが見ものだ。
 そんなことを考えていると、翠葉の携帯がけたたましく振動を始めた。
 腕時計を見れば八時ちょうど。きっとクラスメイトからの一斉メールが始まったのだ。
 昨日は休む間もなく携帯鳴っていた。それらすべてがクラスメイトからのメール。
 用件は、「翠葉のメールアドレスを教えてほしい」というもの。
 先日の内緒話大会でクラス全員が翠葉の誕生日を知ったからだ。
 最初は海斗に聞いていたようだけれど、
「こればかりはクラス委員の実権の域だ」
 と、その海斗が言い逃れたおかげで私にお鉢が回ってきた。
 目の前で携帯の操作に追われる翠葉に、
「少しは私の気持ちを理解してもらえるかしら?」
 個人情報の出所は私だ。そのあたりは伝えておかないといけないと思うの。
 翠葉は「え?」って顔をして私を見る。その間にも続々とメールは届く。
 海斗……これ、半嫌がらせって言わないかしら?
 間違っても私の誕生日にはやってもらいたくないわ……。
「昨日一日携帯鳴りっぱなしよ。みんなして翠葉のアドレス教えろって。許可なく教えちゃったけど許してね」
 そこに海斗がやってきた。
「メール届いたっ? みんなで八時になったら一斉に送ろうって企んでたんだけど」
 海斗、やっぱり嫌がらせにしか見えないんだけど……。
 けれども翠葉はとても嬉しそうな顔をしていた。
「すごくびっくりした!」
「みんな祭り好きだから、この一年は忘れられないくらい楽しい一年になるよ」
「これからの行事も楽しみ」
 翠葉……翠葉が学校を諦めるなんてことができなくなるように、イベントごとに仕掛けはさせてもらうわ。その引き換えに、自分がクラス委員と生徒会を兼任することになってもね……。そんなの安いものだわ。
 海斗にも片棒は担がせるつもり。対価は翠葉の笑顔。それで十分もとは取れるはず。
 藤宮司と秋斗先生に関しては、実はどっちが相手でも全然かまわないの。
 ただ、翠葉が笑っていられればいい。
 ただでさえつらいことを抱えてるのだから、恋愛でくらい幸せを感じてほしい。
 恋愛でつらい想いをしたり片思いの切ない時期を過ごすのもひとつの醍醐味だとは思う。
 でも、翠葉のひたむきさを見ているのはこっちの心臓が持ちそうにない。だから、こんなにも翠葉の幸せを願ってしまうのだろうか……。
 こんなの私の勝手なエゴだとは思う。でも――翠葉の笑顔が曇るところは見たくない……。
 翠葉、学校は楽しいところよ? いい仲間を築けるところ。
 それをもっともっと身を持って知ってほしい。
< 217 / 10,041 >

この作品をシェア

pagetop