光のもとでⅠ
「別に、俺の記憶が抜け落ちたところで困ることはないからいいんじゃない? ま、思い正してもらえることに越したことはないけど……」
 翠はきょとんとした顔で聞いていた。
「いつまで床にしゃがみこんでるつもり? 髪が床につかなくなったからって、そんなところにしゃがみこんでたら冷える」
 手を差し出せば、その手に自分のそれを重ねる。
 これだけでいい……。
 俺は、この行動だけで救われる。
 翠はこの行動にどんな意味があるのかすらも覚えていない。
 でも、俺にとってはものすごく意味のある行動で……。
 ――翠が覚えていなくてもかまわない。
 この手を取ってくれるなら、それだけでいい……。
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