光のもとでⅠ
『ここからはパーティーを続きをお楽しみください! ご存知かとは思いますが、本日の料理は料理部皆さんのお手製です。テーブルにかけられているクロスは手芸部洋裁部門の作品となっております。さ、吹奏楽部の演奏再スタートですっ!』
「これから飛鳥もこっちに来るわ」
 簾条がすぐに翠へ付く。隣には海斗もいるし、これだけ脇を固めていれば問題はないだろう。
 会場にいた翠のクラスメイトが集ってくる。と、さっきまで司会進行をしていた立花が、「せーのっ!」と声をかけた。
「ハッピーバースデイ、翠葉っ!」
 翠はこれでもかというくらいに目を見開き、「ありがとう……」と口にしては、また涙した。けど、さっきの涙とは種類が違う。だから、この泣き顔はカウントしないでおこう。
 その後、何やらプレゼントをもらい、簾条が何か口にすると、翠はピアノを振り返る。次には誰かを探す素振り。
 ピアノの近くにいた茜先輩を見つけると、ふたりでひそひそと言葉を交わす。そして、翠がピアノの前に座ると甘やかな旋律を奏で始めた。
「あっ、星に願いを、だ!」
 周りの人間が発した声で曲名を知る。
 曲どうこうはどうでも良く、今、翠が嬉しそうな顔でピアノを弾いていることが俺の中では重要だった。
 翠の演奏を聴いたあと、ピアノを弾かせたのは失敗だったかもしれないと思った。だから、最後に嬉しそうな顔でピアノを弾くところを見れて良かったと思う。
 演奏が終われば拍手が起こる。
 さっきと同じように茜先輩に手を差し出された翠は、その手を取り、一緒に礼をした。
 頭を上げた翠は、今まで見たことがないほどの笑顔だった。
 受身の笑顔じゃない。自発的な笑顔。
 たとえるならそんな感じ。
 ……いつもそんなふうに笑ってればいいのに。
 その笑顔を俺には守ることができるだろうか。もしくは、作ってやれるだろうか。

 茜先輩とステージを下りた翠は、ふたり仲良く話ながら芝生広場を歩いていく。
 そのうちスキップでも始めるんじゃないか、というくらい弾んだ歩きぶりだった。
 あのまま図書棟に戻るのだろう。
「海斗、佐野、ふたりのあとに付いて」
 すぐに簾条が指示を出す。俺はその簾条の隣に並んだ。
「このイベントの評価は?」
「……そうね、及第点ってところじゃないかしら」
 俺と同じ感想だった。
「でも、翠葉のあんな笑顔初めて見たわ。あの笑顔のためなら藤宮司に使われるのも悪くない」
 言って、すぐさま会場の指揮を取り始める。
「俺に使われる、ね……」
 すでに俺が指示を出そうとしていたものを片っ端から口にしていく。その様を見て、今年は楽ができそうだ、と口もとに笑みが浮かんだ。
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