光のもとでⅠ
 紫陽花の次は、木々の合間に咲き誇る百合たちが待っていた。
 白、ピンク、オレンジ、色とりどりの百合がたくさん咲いている。
「きれい……」
「祖母はとくにカサブランカが好きでね。花言葉を小さい頃に教えてもらった。純潔、威厳、無垢、壮大――ほかの花言葉は知らないけど、これだけは今でも覚えてる」
 懐かしいと思い出しているのはおばあ様のことなのだろう。
「翠葉ちゃんが好きな花は?」
 百合が見渡せるベンチに座り訊かれる。
 つないだ手はそのままに――。
「私、ですか? そうですね、桜……かな? あとは小さい蕾のようなスプレーバラ。カスミソウも好き。どれも好きなんですけど――」
「一番は緑、新緑?」
 言おうとした言葉を先に言われてしまう。
「当たりです」
 ふたりしてくすくすと笑う。

 次に出迎えてくれたのはノウゼンカズラ。
 オレンジ色の大きな花が緑の木に咲き乱れている。
 重そうな頭を必死に太陽へ向けて、蔓は空へ空へと向かって伸びている。
「きれいなオレンジ……。朝は雲が出ていたけど、すっかり青空になりましたね」
 秋斗さんは空を見て、
「本当だ、夏らしい空だね」
 少し右手に力をこめると、同じくらいの力が返ってきた。
 そんなふうに、ところどころにあるベンチに腰掛けては咲いているお花を見て話し、花言葉の話をしたり……。
 まるで老夫婦のように穏やかな時間を過ごした。
 二十メートルほど先に出口と思われるアーチが見えた。
 まるで自分の中にある"限りあるもの"を見てしまった気がして足元に視線を落とす。
 次の瞬間には秋斗さんの胸の中にいた。
「車に戻って、あの公園へ行こう」
 頭の上に降ってくるのは優しく甘い声。
「あの、公園?」
「そう。翠葉ちゃんちの裏にある公園」
「どうして……?」
「そこで返事を聞かせて」
 私は無言で頷いた。
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