光のもとでⅠ
 食べられるとか食べられないとか、そういう問題ではなく食べなくてはいけない。
 そのくらいの努力はしなくては……。
 しかも、食べやすいように中身がクリーム状のものを用意してくれているのだ。
 どうあっても食べなくてはいけない。
 先生が戻ってくると、「はい」とプレートを差し出された。
「アンダンテの新作よ」
「どうして……?」
 湊先生は勤務時間だから買いに行けるわけがない。
 蒼兄が来たという話も聞いていないし……。
「秋斗が昼過ぎに持ってきたのよ。たぶん、ここに翠葉がいるだろうと察しをつけてね」
「秋斗、さん?」
「そう。あんたの寝顔見たら少し安心したみたい。今は図書棟で仕事してるわ」
「あとでお礼言わなくちゃ……」
 そのとき、けたたましく保健室の内線と思われる電話の音が鳴り響いた。
「だああああ、もううるさいっ!」
 言いながらその電話を取りに行く。
「はい。――今起きたのよ。上体起こしてるから少しくらい血圧だって下がるわ。いちいちいちいちうるさい男ねっ!? 気持ちはわからなくもないけど、今診察中っ」
 そこまで言うと、ガッチャ、と電話を切ったであろう音がした。
 そして、またカーテンの中へと入ってくる。
「秋斗よ。血圧が急に下がったけど大丈夫なのか、って。こういう面では司のほうが知識がある分冷静ね。さ、それ食べちゃいなさい」
 プレートに乗せられたシュークリームにかぶりつく。
 アンダンテの商品とあって、甘さ控え目で上品な味がする。
 かぶりついていいのだろうか、と思う節もあるけれど、でも、これが一番上手に食べられる方法な気がした。
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