光のもとでⅠ
 秋兄なりに翠のことを考えていた。
 ただ、それが裏目に出てしまっただけだ。
 翠は何も知らずに記憶を失った。
 そのときのことだけではなく、それまで築いてきたいくつもの出来事や気持ちの一切を。
 人の財産は金や地位じゃないと思う。
 その人間が経験したすべてが財産なんだ。
 だとしたら――翠はそれを失ったことになる。
 それはちゃんと取り戻したほうがいい。
 人は嬉しいだけ、幸せなことだけで人生が成り立っているわけじゃない。
 つらいことや悲しいこと、それら全部が揃って人生だったり思い出だったりする。
 それは失ったままでいるべきじゃない――。
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