光のもとでⅠ
「あるよ。思い出せるか思い出せないか、それは医者にも患者にもわからない。でも、翠葉ちゃんの場合、少しずつでも思い出しているのなら、全部を思い出せる可能性は高い」
 全部――。
「焦らなくていいのよ?」
 栞さんがベッドの脇にしゃがみこみ、私の目線と合わせてくれる。
 私が不安がらないように。
「思い出そうと躍起になると海馬が壊れるってツカサに言われました。だから、必要以上には考えないようにしようと思います。でも、気になることは……秋斗さんやツカサ、周りの人に訊いてもいいでしょうか……?」
「それはかまわないけど、自分を追い込まないようにね?」
「はい……」
 治療が終わってから七時までは四十五分あった。
 私は夕飯まで少しの時間をそのベッドで休ませてもらった。
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