光のもとでⅠ
 君が俺のどこに惹かれたのかなんて、俺は訊く間もなかったのだから。
「――少なくとも、私は自分に対しておっかなびっくり接する人を好きになるとは思えません。私が記憶をなくした経緯に何があったとしても、秋斗さんが秋斗さんでなくなる必要はないと思います。どんな秋斗さんが本当の秋斗さんかなんて私にはわかりません。でも、今の秋斗さんなら私はたぶん好きにはなりません。それだけはわかります」
 彼女は毅然と言い放つ。
「……翠葉ちゃん」
「だから……つらそうな顔をしないでください。あのですね、困るようなことを言われたら全力で困ることにします。対処しきれそうになかったら、全力で逃げることにします。これでどうでしょう?」
「どうでしょう?」と提案しつつ、顔が困った人のそれになる。
 君には敵わないな……。
 そう思えば、気持ちがす、と軽くなった気がした。
 気持ちが軽くなれば、身体中に入っている力も自然と抜ける。
 作り笑いではなく、普通に笑えた気がした。
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