光のもとでⅠ
 森林浴の帰りなのか、それとも打ち合わせ後のことなのか――。
「残念ながら、それがどこのホテルか、どんな状況か、そういうのは思い出せなくて……」
「そっか……。ホテルは藤倉にあるウィステリアホテル。その先は思い出すのを待とう?」
 覚悟を決めたはずなのに、やっぱりどこか尻込みする部分もある。
 司を見て動揺した意味を今の彼女なら理解することができるような気がして、それが怖いと思えば先延ばしにしたくなってしまう。
 それに、せっかくどうでもいい雅のことも忘れてくれたのに、そこまで思い出されてしまう気がする。
 テーブルに視線を移せば、ケトルとカップたちがそのままになっていた。
 これ幸いとそれらに手を伸ばす。
「あ、ごめんなさいっ」
「いいよ。邪魔したのは俺だから」
 少し、嘘……。
 ただ、自分が落ち着きたいだけなんだ。
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