光のもとでⅠ
「今、この階に誰も入ってませんよね?」
「あぁ、相変わらずの不況ぷりだ。たまに物好きな人間が人間ドックで数泊するくらいさ。今はいない」
「なら問題ない。リィの治療って時間かかります?」
「それなりに」
「じゃ、やっぱり必要」
 言いながら、唯兄はエレベーターホールとは反対方向に向かって後ろ歩きを始める。
「自分が出たら非常階段もロックされるから、何かあったら警備室に連絡ください。非常時にはこっちで避難経路確保して連絡するなり迎えに来るなりします」
 言うだけ言って、くるりと背を向けて走りだす。
「何があったんだ?」
「エレベーターで八階を押した人たちに、九階には家族が入院しているのか訊かれたんですけど……」
 その後のやりとりや唯兄が話してくれたことを続けようとしたけれど、説明はそれで十分だったみたい。
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