光のもとでⅠ
 あの笑顔は俺が引き出したものではなく、蒼樹と若槻を頭に思い浮かべて自然とできた笑顔。
 笑顔の起因は俺じゃない。
「はい。あっ、でも、携帯でアラーム鳴らすので大丈夫です」
「起こす手伝いくらいさせて?」
 彼女が苦手とする笑顔を向けると、予想どおりに顔を赤らめ、少し困った顔になる。
 俺自身に困っているのか、この笑顔だけに困っているのか、それともこの会話自体に困っているのか――全部だったりするのかな。
 彼女はソファに腰掛け、そのまま横になる。
 ここからは小さな頭のてっぺんと、長い髪しか見えなくなった。
 今、この部屋にはパソコンが唸る音と適当に仕事をしている俺の手もとから聞こえるタイピング音のみ。
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