光のもとでⅠ
「つらいよ。……でもさ、逃げてばかりもいられないみたい」
 なんだ、ちゃんとわかってるんじゃないか……。
「今回はオーナーと秋斗さんに嵌められた感満載……。俺、お姫さんが体弱いなんて聞いてないし、引越しだって打ち合わせの都合上だと思ってた。今日だって軽くパソコン設定出張作業くらいに思ってたのにさ」
 と、愚痴たれる。
 こういうところは翠葉とは全然似てないな。
「すっごくわかりづらくて紆余曲解しそうになること多々なんだけど、でもこの人たち俺のことかなりちゃんと考えててくれるみたいだから。このままいるわけにもいかないんだよね」
 若槻くんはちゃんと気づいているんだ。周りの人たちが自分のことを考えてくれていることを。
 そこ、意外と重要だと思う。
 それでいて、その好意を無駄にしない姿勢がとくに……。
 そういうこと、翠葉に教えてやってくれないか……?
 翠葉は少し悩んだものの、
「……かしこまりました。でも、その"お姫さん"はどうにかしてください」
 と、呼称の交渉を始める。
「どうにか、ねぇ……。スゥ、よりはリィ、だよなぁ……」
「はい?」
「うん、リィって呼んでもいい?」
「あの、それどこから出てきたんでしょう?」
「リメラルドの超簡易バージョン。ダメ?」
「私、最近めっきりと呼び名が増えてまして、反応できるか怪しい限りなんですけれども、努力はしてみます」
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