光のもとでⅠ
 ピアノの先生も変えて、ただ好きで弾いてきた。
 間宮さんの弾く幻想即興曲に憧れて、それを弾けるようになるためだけに練習を重ねてきた。
 誰に何を強要されるでもなく、自分が弾きたいから弾いてきただけ。
 茜先輩もそうだと思っていた。
「コンクールの予選を通過すると、父から本選で着るドレスが贈られてくるの。いつもはなんの連絡もないのに、そのときだけは必ず。それでね、コンクールに入賞すると家族三人で会えるの。その日の夜だけは一緒にご飯が食べられる。……母は父に会いたいがために、私をありとあらゆるコンクールに出し続けたわ。……そういう母なの。自分の気持ちのためなら娘だって道具にする。私にはお父さんに会いたければ自分が努力しろって――そう言える親なの。歌も勉強も――なんでも一位を取るしかなかったっ。親の道具にされ、好きな人の両親に認められるためには、なんでもできなくちゃだめだったっっっ。どれも全力でがんばってきたのにっっっ。なのに、本当に欲しいものは手に入らないっっっ」
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