光のもとでⅠ
 少しだけ笑みを添えると、茜先輩がちょっとだけ驚いた顔をした。
 私はピアノを弾く前の儀式をする。
 鍵盤に向かい、心の中でこんにちは。
 白鍵と黒鍵を見て、何も変わらない――そう唱えてから鍵盤に手を乗せる。
 今日は茜先輩の手に自分の手を乗せた。
 軽く乗せ、軽く握る。
 茜先輩は楽器のような人。
 私、楽器と対話するのだけは慣れてるんですよ?
 どんなに下手でも、気持ちをこめれば楽器はそれに応えてくれる。
 だから、私の気持ちは伝わる。
 ほかの人だったらわからない。
 でも、茜先輩なら伝わる――。
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