光のもとでⅠ
『俺の携帯なら持って帰ってもらってかまわない。もし翠がかまうっていうなら、あとで家に届ける。……ただ、今夜は鍋で家族水入らずらしいから、玄関のドアにでもぶら下げておこうか? 俺のはコンシェルジュにでも預けてくれればいい』
 声の調子は幾分か柔らかくなったものの、親切そうでどこか意地悪全開な感じ。
「いい……。ツカサが困らないのなら、このままで……」
『問題ない。因みに、別に俺にかけるのに唯さんの携帯使う必要ないから。むしろ、そっちのほうが紛らわしくて迷惑』
「迷惑」という言葉に心がチクリと痛む。
 なんとか口にできた「わかった」と言う言葉は、震えこそしなかったけど、手が――指先から冷えていく感じがした。
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