光のもとでⅠ
 蒼樹が出ていくとドアは閉められ部屋にふたりきりになる。
 日中と同じ状況だけど少し違う。今は彼女が起きている。
 ただ寝顔を見るのではなく、今は顔を合わせて話ができる。
「プリンは冷たいほうが美味しいと思うんだ。だから、まずはこれを食べるのが先決ね」
「美味しい?」と訊けば、「はい」と答えてくれる。けれど、俺ではやっぱりダメなのだろう。
 彼女の頬が緩むことはない。
「でも、やっぱり俺だと緊張しちゃうんだね。蒼樹がさ、アンダンテのものを食べてるときは緊張ほぐれるだろうから、って言ってたんだけど……」
「……だって、蒼兄は慣れてるけど、秋斗さんに食べさせれもらうのは今日が初めてだもの……」
 と、恥ずかしそうに答える。
「そっか……じゃ、何度も食べさせて慣れてもらうしかないね」
 そうだ、この子は嘘がつける子じゃない。口にする言葉はすべて本心だろう。
 嘘をつくくらいなら黙ってしまうような、そんな子だった。
 今さらながらに気づけば後悔だってする。
 少し冷静になればわかることだった。
 だけど、言質は取らせてもらおうかな。
「もう一度訊くね。さっき聞かせてくれた理由も、俺を振ったときに言った理由も、全部本音?」
 少し考え込む彼女。
 いつもは考えたあとに出した答えしか聞くことができない。でも、それでは今までと何も変わらない。
 考えていることをそのままに教えてほしい。
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