光のもとでⅠ
 今は袖で隠れて見えないシルバーの装置に目をやる。
 彼女はコクリと頷いてまた涙を零した。
「ちょっと待ってね」
 俺はさっき放った携帯を手に取り、いくつかの操作を済ませた。
 ディスプレイ表示が変わったところで彼女にそれを見せる。
 彼女は不安そうな顔のままディスプレイに視線を移した。
 詳しい説明はいらないだろう。
 ディスプレイの上部には今現在の彼女の数値が表示され、それのバックアップは別の領域へ保存がかけられる。
 そして、下部に表示されているのはバイタルチェッカーに送信されていた安静時の彼女の数値。それは一時間ループから六時間ループまで設定時間を変えられるようになっている。
 湊ちゃんや栞ちゃんであっても気づきはしないだろう。
 実のところ、これはとても簡単な操作で彼女の携帯からも設定可能な機能だ。
 あのバングルをいつまでつけているかは彼女しだい。けれど、こういうことで脈拍が上がるのを複数人に知られるのは年頃の女の子には酷だろう、と一応そこまで考えて作ったものを作った自分がすっかり忘れていた。
「今、みんなに送信されているのは下に表示されている数値。これは安定期の翠葉ちゃんの数値四時間をループさせているもの。上は実際の数値のバックアップ」
「……え?」
「すっかり忘れていたけど、こういうときのためにそういう機能も作ってあったんだ」
「安心した?」
 返事は得られない。
 恥ずかしいのに変わりはないということだろうか。……でも、慣れてもらわないとね。
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