光のもとでⅠ
 その場の人間が絶句すると、
「わ……余計なこと言ったかも」
 と、口もとを押さえた。
「翠……感情駄々もれっていうか、口からもれてるから」
 忘れていたが、翠はこういう人間だった。
 俺は別にかまわないけど、彼氏の前でそういうことを口にするのはどうなんだか。
 ちらり、と秋兄を見れば、それはそれは不快感を湛えた表情をしていた。
「すぐそこまで来て急に降られた」
 滴る髪をかき上げる。と、
「翠葉……それこそ感情駄々もれだ」
 御園生さんの言葉になんのことかと思って翠を見ると、
「だって、格好いいんだもの」
 俺に視線を固定したままそう答えた。
 くつくつと笑い出したのは若槻さん。
「リィは正直だな。彼氏に昇格した秋斗さん形無しだね」
 言いながら秋兄を見るものだから、秋兄の不機嫌に拍車がかかる。
 ところで、"リィ"って何……。翠の名前のどこを取っても"リ"なんて文字はない。何をもとにつけられた呼び名なんだか……。
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