光のもとでⅠ
 黒いタンクトップに黒いスリムなジーパン。こんがりと焼けた肌に、引き締まった筋肉の人。長い髪の毛はきっちりとポニーテールでまとめられていた。
 脱力したように下を向いていたため、顔のつくりまでは見ることができなかった。
「対馬美鳥(つしまみとり)さん、美しい鳥って書いてミトリ。この部屋の真下、八階の住人」
 と、司先輩が教えてくれる。
 ……この部屋の下、ということは間違えて九階へ来てしまったということだろうか。
「ロッククライマーで物書き業をしている人」
 ロッククライマーって岩とか岸壁登る人のこと……? 物書きというのは小説やエッセイを書く人という認識で合っているだろうか。
 それにしたってすごい組み合わせだ……。
「翠、少し立てる?」
「……あ、たぶん?」
「手を貸すから少し立って」
 言われて、いつもと同じようにゆっくりと立ち上がった。立った直後は眩暈に視界を奪われる。
「せ――」
「いいから。それ、毎回言わなくてもいい。視界がクリアになったら声かけて」
 私が全部言う前に言葉を遮られてしまった。
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