光のもとでⅠ
 しばらくそうしていると、
「体冷えちゃったね」
 と、苦笑される。コクリと頷くと、
「まだ湯船に浸かってもいないんでしょう?」
 また小さく頷いた。
「じゃ、お湯に浸かって落ち着いたら出ていらっしゃい。具合が悪くならない程度なら何分浸かっててもいいから」
 そう言ってもらえたことが嬉しかった。
「でも――これは持って出るわね?」
 そう言って手に取ったのはウォッシュタオル。
「はい……」
 バスタブに浸かるとバラの香りにむせ返りそうになった。でも、気持ちがどんどん落ち着くのがわかる。
 お湯にあたって上気していた身体ですら、真っ赤になるほど首を擦っていた。手を首に伸ばすと、指先が少し触れただけでもヒリヒリした。
 きっと、もうキスマークの欠片もわかりはしないだろう。
 ヒリヒリするのにどうしてかほっとしている自分がいて、どうしてこんな気持ちになるのかが理解できなかった。
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