光のもとでⅠ
 桜林館の隅で、ストレスなど全く溜まっていなさそうな久先輩と数人の男子がボール争奪線を繰り広げていた。
 私は足を止めるほどに驚いていた。
 部活荒しで有名ではあったけど、実際にそれを目にしたのは初めてだったのだ。
「あ、翠葉ちゃん」
 急にピタリ、と足を止めた久先輩はここぞとばかりに捕らえられる。
 それはもう、「捕獲」という言葉がぴったりな状況だった。
 なのに、ボールはまだその手にある。
「今帰り?」
「はい」
「そっか、気をつけてね」
「はい……先輩も」
「うん、ボールは必ず死守……ってことで――」
 完全に捕まっていたはずなのに、久先輩はするりと三人の腕から逃れ走り去っていった。
 ……あれは猿と言われても珍獣と言われても仕方がない気がする。
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