光のもとでⅠ
 平衡感覚を失うほどではない。
 そう思いながら足を踏み出すと、目測を誤って爪先に何かがぶつかる。
 たかがそれだけのことで、私はバランスを崩して床に膝をついた。
「っ……」
 ラグが敷いてあったけど、勢い余って膝をつくとなるとそれなりに痛かった。
「バカなんじゃないの?」
 声はものすごく近くから聞こえた。 
 ほぼ私の真正面。
 なのに、私の視界は暗い。
 目はちゃんと開いているのに暗い。
「急に立つな。……眩暈がしたらすぐ座れって何度も言われてるだろ?」
 ぐっ、と歯に力をこめる。
 そうでもしないと歯の根が合わない気がしたから。
 まともな声にならない気がしたから。
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