光のもとでⅠ
 コートは着ておらず、かばんを持つ手にぞんざいに抱えられている。
 華奢な肩が上下に動いていることから、息が上がった状態なのが見て取れた。
 まだ十一月とはいえ、もう十二月目前だ。
 五時を回った今はすっかり陽も陰り、急激に気温が下がり始めている。
 ましてや水辺ともなれば寒くないわけがない。
 コートを着ている越谷ですら、時折吹く強い風には身を震わせる。
 翠は寒さなどものともせず、「携帯を返してほしい」と訴えていた。
「これ? 私、拾ったのよ? 感謝してほしいわ」
 拾ったというそれに、翠は間接的に反論する。
「……落としてはいないと思います」
「あらやだ……では、どうして私が持っているのかしら? まさか、私が盗ったなんて仰らないわよね?」
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