光のもとでⅠ
 ダイヤルし終えてコール音が鳴る携帯を差し出される。
 その速やかさに普通ではないのものを感じていた。
『湊さん、急ぎじゃなかったら切らせてっ』
 携帯の向こうから、いつもとは様子が異なる唯兄の声がした。
 すごく慌てている、そんな感じ。
 何かがバサバサと落ちる音や色んな音が聞こえてくる。
 私が何も話せずにいると、湊先生に携帯を取られた。
「若槻、安心して。あんたの鍵はここにある。翠葉が持ってるから」
 それだけを言うと、携帯を渡された。
 今度は携帯を両手で持って唯兄に話す。
「唯兄……? ごめんね。今朝部屋に落ちていたのを私が拾ったの。学校へ持ってくるつもりはなかったのだけど、どうしても気になってそのままにしてられなくて……」
『良かったぁ~……失くしたかと思った。あぁ、マジで良かった』
「ごめんね」
『ううん、リィが持ってるってわかったから大丈夫。今日学校終わるの何時だっけ?」
「今日は四時過ぎだけれど、そのあとに少し診察がある」
『じゃ、その頃に迎えに行く。徒歩がきついならコンシェルジュに車出してもらうから連絡ちょうだい?』
「はい。……あのっ、鍵、絶対になくさないからっ、だから――」
『うん。リィが持っててくれるなら安心できる』
「持ってきちゃってごめんなさい」
『気にしなくていいよ』
 そう言うと、「またあとでね」と通話が切れた。
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