光のもとでⅠ
 エレベーターに乗る直前、はたと思い出しお母さんには先に車へ行ってもらうことにした。
 私は縋るように十階のボタンを押す。
 十階に着くとひとつひとつセキュリティーを解除していく。
 けれど、いつもと違うことにすぐ気づいた。
 廊下の照明がひとつもついていない。いつもいる場所に人がいない。
 警備員控え室には誰もいなかった。
 逸る気持ちを抑えて廊下を進む。
 ナースセンターにも人影はなく、デスクの上に置かれた電話がうるさく鳴ることもない。
 小枝子さんがいないということは果歩さんもいないのだろう。
 わかっていつつも果歩さんが使っていた病室のドアへと足を向ける。
 小さくノックをしてから静かにドアを開けると、陽の差し込む病室はガランとしていた。
 妊婦さん関連の雑誌は残ったままだけれど、きれいに整えられたベッドが入院患者がいないことを物語っていた。
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