光のもとでⅠ
 まさか――だって、お姉さんは唯兄のことをとても大切な人といっていたし、鍵を握りしめる姿はどれだけ唯兄を思っていいるのかがわかるような力のこもり具合だった。
 ……ひとつ気になることがある。
「唯兄、あのオルゴールの曲は何? 私には聞けなかったから……。唯兄は聞いた?」
「曲名はまだ秘密。それから、オルゴールはまだ聞いてない」
「どうして? ずっと探していたオルゴールなのでしょう?」
 私だったらすぐにでも聞くだろう。
「……怖いから、かな」
「どうして怖いの……?」
「たとえばさ、アレ――」
 唯兄は立ち上がり、デスクの上に置かれた陶器の入れ物を手に取った。
「秋斗さんからのプレゼントが入っているこの入れ物。これが三年間探しても見つからなくて、やっと見つかったとする。リィはすぐに開けられる?」
「……開けられると思う」
「……そっか。じゃぁさ、全然関係のない人に託されていて、どんなに偶然が重なっても会えそうにない人に託されていて、ひょんなことから知り合った人を経由して手元に戻ってきたとしたら? 秋斗さん本人がリィには接点のない人に渡したものをすぐに開けられる?」
「……それは――」
 今唯兄が言ったことは、実際唯兄に起きていることだった。
< 997 / 10,041 >

この作品をシェア

pagetop